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東京地方裁判所 平成11年(ワ)9930号 判決

原告 株式会社サザンパシフィッククラブ

右代表者代表取締役 山本治

右訴訟代理人弁護士 榊原卓郎

同 安部陽一郎

同 依田敏泰

右訴訟復代理人弁護士 高橋俊彦

原告補助参加人 谷村憲一

同 永井重彦

同 関根英夫

被告 株式会社新生銀行

右代表者代表取締役 八城政基

右訴訟代理人弁護士 畠山保雄

同 松本伸也

同 松井秀樹

同 川俣尚高

同 太田大三

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、三四億〇六〇〇万円及びこれに対する平成一一年五月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告は、原告の経営を支配、管理する中で、原告の経営状況に応じ適時に適切な経営判断を行い原告の会員制事業及びその会員の利益をできる限り確保すべきであったにもかかわらず、違法な指示により会員権販売を中止させ、その後は原告の経営を漫然と放置して、原告に対し損害を発生させたと主張して、原告が、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠の摘示のない事実は、争いのない事実である。)

1  原告

原告は、平成元年一月三一日、株式会社イ・アイ・イーインターナショナル(以下「イ社」という。)により開発されるリゾートにおいて会員制のリゾートクラブを組織し運営するために、イ社の子会社として設立された株式会社である(子会社であることにつき甲一五)。

原告補助参加人らは、いずれも、右リゾートクラブの会員である(弁論の全趣旨)。

2  被告

被告は、長期信用銀行業務及びこれに関連する業務を目的とする金融機関であり、イ社のリゾー卜開発事業の一部に関して融資をしていたものであるが、平成一〇年一〇月二三日特別公的管理開始決定を受け、その後、商号を株式会社日本長期信用銀行から現商号に変更した(特別公的管理開始決定を受けたこと及び商号変更につき弁論の全趣旨)。

3  イ社

イ社は、ハワイ、タヒチ、オーストラリア等南太平洋のリゾー卜地域において、ゴルフ場、マリーナ、ホテル等の総合的な施設を備えたリゾート開発を行っていた会社である(以下、イ社が行っていた右リゾート開発を「イ社のリゾート開発事業」という。)。

イ社は、平成二年末ころ、経営危機に陥ったため、被告を含む五銀行により形成された支援銀行団の支援を受けてリストラ計画を進めたが、その効果を上げることはできなかった(時期につき甲二六)。

被告は、平成五年七月、イ社に対する支援を停止し、被告からイ社に出向させていたイ社の役職員を引き上げた。

4  被告の原告に対する融資

被告は、平成四年八月、原告に対する融資を開始し、同一一年四月時点で、その額は三四億〇六〇〇万円に達した。

被告は、平成一一年八月一六日、株式会社整理回収機構に対し、右貸付金債権を譲渡した(弁論の全趣旨)。

二  原告の主張

1  被告による原告経営の支配

(一) 原告の設立への関与

被告は、イ社のメーンバンクとしてイ社のリゾート開発事業に参画し、その企画、立案段階から共同事業者としての役割を果たしていた。

被告は、原告の設立に先立ち、イ社に対し、常務取締役として平間、事業部長として松ヶ浦喜久次(以下「松ヶ浦」という。)を出向させ、同人らの主導により、原告の会員制事業の企画、立案及び立ち上げを実施した。また、被告及びイ社は、原告が組織したリゾートクラブの会員権販売に際し、大手企業の資本参加を募って、被告及びイ社が原告の会員制事業の母体企業であることを宣伝した。

(二)原告の支配、管理体制の形成

イ社は平成三年初頭に経営危機に陥ったが、これを打開するために、五銀行による支援銀行団が形成された。被告は、その支援銀行団の中心となり、また、イ社のリゾー卜開発事業が原告の会員制事業と密接な関連を有していたことから、原告の経営についても積極的に関与、管理した。

ところで、支援銀行団によってイ社内に設置された経営委員会は、イ社及びその子会社の事業に関し最高意思決定機関としての機能を有しており、被告からイ社に出向していた田中重彦(以下「田中」という。)らが、その牽引役を果たしていた。経営委員会は、イ社のリゾー卜開発事業の見直しを検討し、平成三年八月、被告のグループ会社である長銀総合研究所に対し、右事業の重要な一翼を担うものと位置付けられていた原告の会員制事業の将来性について調査を依頼したところ、その結果は、右事業の将来性を否定するものではなかった。こうして、被告は、原告の会員制事業の展開、ひいては原告の経営そのものを主導するようになった。

右の経過の中で、田中は、平成三年六月に原告の取締役に、同年一二月には代表取締役社長に就任し、同時に後藤田紘二(以下「後藤田」という。)が常務取締役に就任し、こうして、原告の経営体制は、被告から派遣された経営陣により支配、管理されることになった。

こうしたことは、被告が、田中をリーダーとする被告顧問団を設置し、これをイ社及びそのグループ会社の最高意思決定機関と位置付けていたことからも裏付けられる。なお、被告は、田中らの退任後も、原告に財務部長を継続して派遣し、原告の運営全般を掌握し続けた。

田中らは、原告の会員制事業を被告の支配、管理下に置くべく、被告と取引のあった企業が開発したハワイの施設を原告が借り上げて運営するなどの検討を行った。

(三) 原告株式の取得等による子会社化

被告は、平成五年七月ころイ社から撤退したが、原告については、撤退の対象とせず、むしろイ社を排除してその経営を管理、運営することにした。

すなわち、被告は、平成五年六月、事実上の子会社であるティエフ・コーポレーション株式会社(以下「TFC」という。)を通じて、イ社から一万二〇〇〇株の原告株式を取得して、筆頭株主となった。被告は、それ以前から、原告株式を譲渡担保として保有しており、また、その系列のノンバンクであるエヌイーディー株式会社(以下「エヌイーディー」という。)も原告株式を譲渡担保として保有していて、いつでも、これらの原告株式について名義書換を行い、原告の議決権行使を行うことが可能であった。したがって、被告は、平成五年六月の右原告株式の取得により、原告の発行済株式総数の五三・五パーセントを掌握して、実質上原告の親会社となったのである。

被告が右のとおり原告株式を取得したのは、原告をイ社から切り離し、被告主導により原告の経営を行うためであり、被告が主張するように、イ社の代表取締役である高橋治則(以下「高橋」という。)による原告の私物化を回避することを目的とするものではなかった。

(四) 被告による支配、管理の継続

支援銀行団は、遅くとも平成三年初め、イ社を経由して原告に対する運転資金の融資を開始していたところ、被告は、イ社から切り離して原告の会員制事業を継続するという方針を出し、支援銀行団に対し、これを認知させ、同四年七月末には右融資債権を被告に譲渡させて一本化した。また、被告は、同年八月から、直接原告に対する運転資金の融資を開始した。このように、被告は、特別公的管理が開始されるまでの間、資金面からも原告を支配、管理していたのである。

こうした状況の下において、原告の経営は、株主総会及び取締役会で発議し決定されることなく、専ら被告の意を受けた田中及び後藤田らによって意思決定され、実行されてきた。

2  被告の不法行為

(一) 会員権の販売中止

平成三年一二月に原告の代表取締役社長に就任した田中は、被告からの違法な指示を受け、会員権の販売を中止する旨の方針を突然決定した(以下「中止決定」という)。この中止決定は、原告の株主総会に諮ることなく、また、原告の取締役会でも十分に審議、決議することなくされたものであり、その違法性は顕著であった。

また、原告の会員制事業は、当初から、販売される会員権の予定口数が定められ、それを基盤として運営される予定であったところ、予定口数達成前に会員権の販売を中止することは、右事業の死命を制する最重要事項であった。被告は、このことにつき最も利害関係を有する会員に対し中止決定の開示又は説明を一切しておらず、中止決定はこの点でも違法であった。

中止決定により、原告の資金繰りは当然悪化し、原告の会員制事業は突然頓挫した。

(二) 被告による原告経営の放置

原告のプロパーの役職員は、右中止決定後も、原告の会員制事業の存続のため、新規会員の募集等の経営改善策や右事業の精算案を検討、策定し、被告に対し継続的に提示、懇願して、被告の判断を求めた。しかるに、被告は、右改善策等を無視し、原告の経営状況に応じて適時に適切な経営判断をすることなく、漫然と放置した。そして、被告は、原告の保有する施設に担保権を設定させるなどして、原告に対する融資を継続して、原告の債務を累積させた。

被告は、原告の会員制事業について、宣伝をするなど被告の信用によりこれを進めてきたことから、原告の経営不安が具現化すると、原告の会員からその責任を追及され、被告の金融機関としての信用が損なわれることを恐れて、こうした違法行為を継続したのである。

3  原告の損害

(一) 積極的損害

田中が平成三年一二月に原告の代表取締役社長に就任したことを契機に開始された被告による原告の完全な支配、管理体制下において、被告は、一方で適時に適切な経営判断をすることを放てきするとともに、他方で原告に対する貸付金のみを積極的に増大させるという、極めて異常かつ無責任な状態を意図的に継続した。こうして、原告は、少なくとも被告からの借入金相当額である三四億〇六〇〇万円の損害を被った。

(二) 消極的損害

南太平洋の代表的なリゾート地に複数の施設を展開する原告の会員制事業は、他に類を見ないグレードと規模を誇るものとして、平成四年末ころ高い評価を得ていた。したがって、原告は、本来の販売活動を展開すれば、多額の資金を獲得できたはずである。

しかるに、原告は、事業会社としての妥当、正常な営業活動を被告により不法、不当に拘束されたため、少なくとも、被告からの借入金額を下らない額の得べかりし利益を喪失するという損害を被った。

三  被告の主張

1  被告による原告経営の支配について

(一) 原告の主張1(一)及び(二)について

被告において原告が設立されたことを認識したのは、原告が設立された後であった。原告の設立当時の役員は、代表取締役が高橋であり、その他の取締役もほとんどイ社の関係者であった。このように、被告は、原告の会員制組織の企画、立案及び事業の立上げに全く関与していなかった。

原告が主張するような経営委員会が設立された事実は、否認する。長銀総合研究所の調査結果は、一つの可能性を示したものにすぎなかった。

被告顧問団が設置された事実は、否認する。

なお、原告がハワイの施設を借り上げることを検討したのは、原告が会員に対しハワイに施設を保有することを約束しており、また、会員からもそのような強い要望があったからである。

(二) 原告株式の取得等について

被告は、原告から資本参加を要請されこれに応じた多数の企業のうちの一社にすぎず、他の企業と同水準である原告の発行済株式総数の〇・五パーセント(二〇〇株)しか保有していなかった。原告の株式については、イ社及びそのグループ会社が右総数の七八・五パーセントを保有していたのである。

なお、原告は、被告がイ社に対する貸付金の担保として原告株式の差し入れを受けていたことを問題としているが、被告に差し入れられていた原告株式は、純粋に債権担保を目的とするものであり、担保権が実行されるまではあくまでイ社が所有するものであり、また、名義書換もされておらず、これに基づき被告が原告の議決権を行使することも不可能であった。

また、被告は、原告株式がエヌイーディーに担保として差し入れられていた事実を知らなかった。

また、TFCがイ社から一万二〇〇〇株の原告株式を取得したのは、次の事情による。すなわち、被告は、平成五年六月ころ、イ社及びそのグループ会社の自力再建は不可能と判断し、高橋に対し和議による法的手続の下での再建を勧告したが、拒否されたので、同年七月、イ社への支援を停止した。こうした経過の中で、被告のイ社に対する支援停止が現実化した場合、イ社及びそのグループ会社が資金繰りに窮し、高橋が、原告が保有する資産を売却し又は会員の追加募集を強行するなどして資金を集め、これをイ社及びそのグループ会社の資金繰りに流用するなどして、原告及びその会員の利益を不当に害する行為に及ぶことが懸念された。そこで、TFCは、このような事態を未然に防止すべく、いわば緊急避難的な措置として、原告の了解の下、原告株式を取得したのである。もっとも、実際には、被告のイ社に対する支援停止後も右のような事態に至らなかったため、TFCは、イ社に対し、取得した原告株式の一部を再譲渡し、また、高橋との間で、その残りについても再譲渡することを合意したが、平成七年春に高橋が理事長を務める東京協和信用組合の経営破綻及びそれについての高橋に対する刑事責任追及の問題が表面化したため、残りの再譲渡が実現されないまま現在に至っているものである。

(三) 原告の役員及び意思決定について

原告の役員の過半数は、その設立当初から終始、イ社出身者によって占められていた。田中は、それまで原告の代表取締役社長であった伊藤和郎(以下「伊藤」という。)が自らの都合により退任した後、適当な後任者がいなかったため、暫定的に原告の非常勤の取締役として社長に就任したにすぎない。また、榊の退任後は、被告出身者は原告の役員に就任していない。さらに、財務部長は、原告に対する融資が原告の会員制事業以外に流用されないようチェックするために被告から出向していたにすぎず、原告の経営の意思決定には関与していなかった。

そもそも、株式会社である原告においては、重要な業務執行の意思決定は取締役会でされるものであるところ、原告の取締役の過半数がイ社出身者によって占められているという状況において、原告の一株主にすぎない被告はもちろん、わずか一ないし二名の被告出身の取締役が、原告の経営を支配、管理できるはずがない。

(四) 原告に対する融資について

原告の会員制事業は、そもそも預託金及び入会金並びにそれらの運用益で施設を保有、運営していくというものであり、金融機関からの借入を予定するものではなかった。ところが、原告は、バブル経済の崩壊及びイ社の経営危機の表面化により会員権の募集が困難となったことから、資金繰りに窮し、被告に依頼して被告から借入を受けることになった。

被告は、イ社については支援を停止したが、イ社のグループ会社については、当該事業の事業性、融資を打ち切った場合に被告の債権回収に与える影響等諸般の事情を考慮して各会社ごとに融資を継続するか否かを決定することにした。被告は、原告に対し、経営の抜本的な改革により単年度の期間収支を黒字化し、新たな借入がなくとも自転できるような態勢を作ることが必要である旨を進言しつつ、それまでの間の運転資金を融資していた。ところが、原告の経営は改善しなかったため、被告の原告に対する運転資金の融資が継続された。

このように、被告の原告に対する融資は、通常の金融機関によるそれと何ら異なるところはなかった。

2  被告の不法行為について

(一)会員権の販売中止

原告の会員権の募集は、平成二年秋ころからのバブル経済の崩壊による会員権相場の下落に加え、同年暮れ、原告の経営母体であるイ社の経営危機が表面化したことにより、事実上不可能な状況となった。そのような状況の下において、当時の原告経営陣の判断により、田中が代表取締役に就任する前の平成三年上期から会員権の募集を中止していた旨の報告を被告は受けている。したがって、田中が会員権の販売を中止する旨の方針を突然決定したという事実は、そもそも存在しない。

また、バブル経済の崩壊によりリゾー卜会員権の販売は困難な状況にあり、また、イ社の経営危機が表面化したため、イ社のグループ会社である原告の先行きも不明となり、さらに、原告が会員にその利用を約束していた施設のうち、実際に原告が所有して会員に利用させていたのはそのごく一部にすぎず、残りは取得の目処も立たない状況にあったことから、原告の会員権を購入する者が多数存在するとは、到底考えられない状況であった。また、前記1(四)のとおり、原告の会員制事業は、基本的に会員から施設利用料を徴収しないものであったことから、原告は、資金繰りに窮し、被告から融資を受けることになった。こうした状況において、原告が会員権を追加募集しても、ほとんど販売できないか、販売するためには金額を大幅に下げざるを得ず、結果として原告の会員制事業が破綻することは確実であった。

こうしたことからすると、原告の経営の建て直しのために、借入金により日々の運転資金を賄いつつ経営改善を進め、景気の回復を待って会員権の追加募集を行うこととした原告経営陣の判断は、合理的なものであった。

(二) 被告による原告経営の放置について

原告の経営状況に応じた適時に適切な経営判断を行わなかったという被告の不作為が原告に対する不法行為になるためには、原告に対しそのような措置をとるべき法的義務を負っていることが前提となる。しかしながら、被告は、原告の一株主でありまた一債権者であるにすぎず、自らの出資金の限度を超えて、原告の経営に関して何らの責任を負うものではない。

3  原告の損害について

(一) 積極的損害

原告は、被告から借入金に相当する金員を現実に交付され、それを会員のための施設維持等の費用に充てているのであるから、被告からの融資により、損害を被ったという関係にはない。

また、前記1(四)のとおり、原告に対する融資は、原告の会員制事業が基本的に会員から施設利用料を徴収しないものであったことから、資金繰りに窮した原告からの依頼によってされたものであって、原告の主張する不法行為によりその必要性が生じたわけではなかった。したがって、原告の主張する不法行為と原告が借入金債務を負ったこととの間には、因果関係がない。

(二) 消極的損害

前記2(一)のとおり、原告が新規会員権を販売することは困難な状況にあったのであるから、原告の消極的損害に関する主張は、その前提を欠くものである。

なお、原告が販売できたはずであると主張する会員権は、預託金及び入会金の合計額が二〇〇〇万円のものであったところ、原告は、預託金部分については、会員に対して返還義務を負うことになるし、また、入会金部分についても、販売経費を差し引けばその全額を収入として得られるわけではなかった。したがって、預託金及び入会金の合計額をもって消極的損害とする原告の主張は、失当である。

四  争点

1  被告による原告経営の支配の有無

2  被告の不法行為の成否

3  原告の損害の有無及びその額

第三当裁判所の判断

一  本件の経緯等について

前記前提となる事実に、証拠(甲一ないし四、六の1、2、七ないし一二、一五、一七、一八、二〇、二一、二六、乙一ないし三、証人後藤田紘二、同川口茂、同石黒正)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる(なお、甲一二の証拠能力については後述する。)。

1  原告の設立時の状況

(一) イ社は、平成元年一月当時、サイパンを初めとする海外のリゾート開発事業を次々と展開していた。イ社のリゾート開発事業は、イ社の代表者である高橋、被告からイ社に出向していた平間、同松ヶ浦らによって、検討されて進められた。

(二) そして、原告は、同月三一日、イ社により開発されるリゾートにおいて会員制のリゾートクラブを組織し運営するために、イ社の子会社として設立された。同年三月三一日当時の原告の代表取締役社長は伊藤であり、高橋、平間、川口茂(以下「川口」という。)らは取締役であった。原告の会員制事業は、高橋、平間、松ヶ浦らに、同年五月ころからは川口も加わって、検討されて進められた。

(三) 同年一二月一五日当時、原告の発行済株式総数は四万株であり、そのうち、イ社が二万一〇〇〇株を、被告を含む三三社がそれぞれ二〇〇株ずつを有していた。

2  イ社の経営危機と経営委員会

(一) 原告の会員制事業は、会員から施設利用に際して利用料をほとんど徴収せず、預託金及び入会金のうち施設の取得に当てられた以外の部分の運用益により施設の運営を行うものであったところ、平成二年末ころから、会員権の販売状況が悪化し、原告が収入を得ることが困難な状況になっていた。

(二) イ社は、同年末ころ、経営危機に陥ったため、五銀行(被告、三井信託銀行、三菱信託銀行、住友信託銀行及び日本債券信用銀行)により、支援銀行団が形成され、その支援の下で、平成三年四月から、第一次リストラ計画を進めた。

ところで、同年二月一二日、イ社内に設置された経営委員会が原告の会員制事業について協議した際、住友信託銀行から出向していたイ社の専務取締役八高時夫が右事業を解消するべきである旨発言したりしたことから、経営委員会は、原告の会員制事業について長銀総合研究所に調査を依頼した。また、イ社、原告及びシーコムは、同年八月一日、原告の会員制事業の推進を目的として、既に同年六月二〇日原告の非常勤の取締役に就任していた田中を委員長とするSPC委員会を設置した。右調査及びSPC委員会での討議の結果は、原告の会員制事業を推進するというものであった。

3  田中らの役員就任等

(一) 被告の従業員であった後藤田は、イ社の関連会社から被告に対し要請があったこともあって、右2の間の平成二年六月二二日にイ社の取締役及び原告の非常勤の取締役に、そして、同三年六月末には、当時の原告の常務取締役であった金子元也から要請があって、原告の常務取締役に就任した。

なお、後藤田が原告の取締役であった当時、原告の日常的な業務は、原告の常勤の取締役であった蔵西克夫、イ社から出向しており原告の取締役であった奥原英明及び後藤田の三名により行われていたが、重要事項については、これに田中及び原告の取締役であったダニエル・アンドレ・オートフォイユも加わって、週一回程度開かれる場において協議され、決定されていた。

(二) 田中は、当時イ社の副社長でもあったが、同年一二月、当時の原告の代表取締役社長であった伊藤が突然退任することになったことから、同月一六日、暫定的に原告の代表取締役社長に就任した。右当時田中は既に被告を退職していた。

(三) なお、原告の第四回定時株主総会招集通知の添付書類である平成三年四月一日から同四年三月三一日までの間(第四期)の報告書(甲一八)には、営業の経過及び成果として「当期の我が国経済については、昨年夏以降景気後退感が強まりその傾向が長引くなかで、特に証券、不動産不況が深刻化致しました。この様な厳しい経済情勢のもとで、当社と致しましては当面の業務環境の変化に対応して事業基盤を再構築する必要から会員権販売活動を一時休止致しました。」との記載が、また、会社が対処すべき課題として「海外リゾート施設の整備、クラブ運営の充実、会員権市場開拓に向けて努力を傾注し、海外リゾー卜事業の先駆的企業として確固たる経営基盤を形成して参る所存であります。」との記載がされている。

4  被告からの融資及びハワイの施設の賃借

(一) 前記2(一)のとおり、原告の会員制事業は平成二年末ころから悪化していたため、原告が収入を得ることが困難な状況になっており、また、原告は、会員が会員権購入のため利用していた提携ローンについて保証していたところ、会員が支払を怠ったことに伴い代位弁済を請求されたりするようになっていた。

こうした状況の下において、原告は、銀行から融資を得るべく足利銀行や富士銀行に打診したものの受け入れられなかったことから、平成四年七月、原告の親会社であるイ社に融資していた被告に対し、原告に対する融資を依頼した。その際、原告は、オーストラリアのサンクチュアリーコーブにある施設を担保として提供することとした。

こうして、被告は、同年八月、原告に対する融資を開始し、原告は、右借入金を運転資金として使用した。

(二) また、原告は、会員に対し、その募集に際し、フィジー、タヒチ、ハワイ、ニューカレドニアの施設の提供を約束していたが、現実に提供できていたのはフィジー及びタヒチの一部のみであり、平成四年ころに至っても、ハワイの施設が取得できず、会員からクレームを受けていた。

そこで、原告は、会員から債務不履行を理由に預託金及び入会金の返還を請求される事態を回避するために、早急にハワイの施設を確保すべく検討を進めたが、平成四年夏ころ、当初検討していた施設の取得が不可能となったことから、代替施設の賃借を検討した。その過程で、被告から、その取引先が所有する施設の紹介も受けたが、原告は、最終的には、当初検討していた内容により近い別の施設を賃借することに決定した。

こうして、原告は、会員に対し、同年八月ころから、ハワイの施設の提供を開始した。

(三) なお、原告の第五回定時株主総会招集通知の添付書類である平成四年四月一日から同五年三月三一日までの間(第五期)の報告書(甲一九)には、営業の経過及び成果として「このような厳しい環境のもとで、当社といたしましては会員権の販売再開を引き続き見合わせる一方、クラブ運営の充実と来るべき販売再開に備えたリゾート施設の拡充に努め、とくに当期央から懸案のハワイにおける新規リゾート施設の提供を開始するなど、事業基盤の整備に最大の注力をいたしました。」との記載がされている。

5  原告株式の取得等

(一) イ社は、第一次リストラ計画に続き、平成四年七月ころから第二次リストラ計画を進めたが、効果を上げることができなかった。そこで、債権者である被告は、同五年六月ころ、和議手続によるイ社の建て直し、さらには、イ社に対する支援停止を検討した。

こうした状況の下で、被告のグループ会社であるTFCは、同年六月、被告がイ社に対する支援を停止した場合にイ社が資金繰りに窮して原告を私物化して資金化することを防止するため、原告の発行済株式総数の三〇パーセントに当たる一万二〇〇〇株の原告株式を取得した。その結果、イ社及びそのグループ会社の原告株式の持株比率は、過半数を割る四八・五パーセントとなった。

ところが、懸念されたような事態が生じなかったため、TFCは、イ社に対し、平成六年五月、取得した原告株式のうち一三〇〇株を再譲渡し、被告は、高橋との間で、残りの原告株式についても再譲渡することを合意した。

もっとも、同年一二月、安全信用組合と高橋が理事長であった東京協和信用組合の乱脈経営が政治スキャンダル化したいわゆる二信組問題が生じ、平成七年には、高橋が、国会に証人喚問され、また、逮捕、勾留、起訴されるに至ったため、右の再譲渡は実現されなかった。

(二) 右(一)の間の平成五年六月二八日、榊修三(以下「榊」という。)が、後藤田の後任ということで被告から出向して、原告の専務取締役に就任した。他方、同年一〇月二九日に後藤田が常務取締役を、同年一一月三〇日には田中が代表取締役社長をそれぞれ退任した。

そして、同年一一月、川口が、当時イ社のグループ会社である南阿蘇開発株式会社の社長であったところ、被告からの勧誘もあって原告の代表取締役社長に就任した。川口が代表取締役社長であった当時、原告の意思決定は、株主総会及び取締役会によって決議されていた。

榊は、平成七年六月、原告の専務取締役を退任した。

6  被告に対する経営改善案等の提案等

(一) 原告は、被告に対し、平成七年九月一四日ころ、「SPC経営改善策実施案ご検討のお願い」と題する書面(甲九)により、新規会員権の販売等の経営改善案のたたき台を作成し、提示した。

同様に、原告は、被告に対し、(1) 平成八年三月ころ、会員権の買い取りを、(2) 同年五月一六日ころ、「経営の抜本的改善策について(案)」と題する書面(甲一〇)により、一口二〇〇万円程度の新規会員権を年間五〇口程度販売するなどの経営改善策及びそれが困難な場合の会社整理案等を、(3) 平成九年一二月三日ころ、「SPCの現状と経営の抜本的改善策について」と題する書面(甲一一)により、施設売却等の経営改善策を、(4) 同一〇年三月ころ、会社整理案を、それぞれ提案した。

(二) なお、被告は、原告に対し、平成五年一〇月から同一〇年一一月まで、財務部長を出向させていた。

二  被告による原告経営の支配の有無(争点1)について

原告は、被告が原告経営を支配、管理していた旨主張しているので、右一で認定した事実を踏まえ、検討する。

1  原告の設立への関与

原告は、被告が原告の設立を主導していた旨主張し(前記原告の主張1(一))、なるほど、原告の設立時においては、被告からイ社に出向していた者の関与が認められるところである(前記一1)。

しかしながら、原告の会員制事業は、前記一1(二)で認定したとおり、被告からの出向者の他、被告からの出向者でない高橋及び川口らも関与し、これらの者も含めた協議によって進められたのである。そして、本件においては、被告からの出向者がそうした協議を主導していたこと及び被告が原告の会員制事業の母体企業であることを宣伝していたことを証する的確な証拠は存在しない。

こうしたことに、前記一1(三)で認定したとおり、原告が設立されて間もない時点においては、被告は、原告の発行済株式総数のわずか〇・五パーセントの株式を有していたにすぎず、他方、イ社は、その五〇パーセント以上の株式を有していたことを併せ考えると、被告が原告の会員制事業を主導していたとの原告の主張については、未だ立証が尽くされていないものといわざるを得ない。

2  経営委員会

(一) 原告は、イ社内に設置された経営委員会が、イ社及びその子会社の最高意思決定機関としての機能を有しており、田中らが、その牽引役を果たしていた旨主張している(前記原告の主張1(二))。

(二) なるほど、イ社内に経営委員会が設置されていた事実が認められる(前記一2(二))。そして、平成三年一月七日付けの書面(甲一二)には、経営委員会について、次の内容の記載がされている。

イ社及びイ社のグループ各社の経営に関する重要事項について審議し決定する目的で、経営委員会を設置する。経営委員会は、高橋を委員長、顧問を副委員長とし、イ社の取締役及び顧問のうちから選任された者で構成する。経営委員会への付議事項は、経営の基本方針、予算、決算、人事、重要な契約締結、変更、不動産等の取得処分、新規事業及びグループ各社の重要事項であり、出席者の過半数の賛成により決定される。代表取締役は、経営委員会の決定事項について、遵守しなければならない。

また、右書面中には、「高橋社長との二人三脚体制が表面、実態は当行が実質経営の旨明確化」、「要は顧問団及び経営委員会に情報が集中し、コントロールしやすい組織がポイント」などの記載がされている。

(三) しかしながら、本件においては、そもそも右文書の作成者、作成趣旨等が明らかにされておらず、また、右文書中の右の如き記載及び経営委員会に関する川口の供述によっても、経営委員会が右記載のような実態を有していたか否か、また、その具体的な活動状況についてはつまびらかにされていない。こうしたことに、そもそも、右委員会の委員長は高橋とされ、また、その構成員もイ社の取締役及び顧問のうちから選任された者が想定されていることをも考え併せると、結局、前記原告の主張1(二)のような、被告が原告の会員制事業の展開、ひいては原告の経営そのものを主導、支配していたという事実については、未だ立証が尽くされていないものといわざるを得ない。

3  原告の経営陣及び被告顧問団

(一) 原告は、その経営体制は被告から派遣された経営陣により支配、管理されていた旨主張している(前記原告の主張1(二))が、田中らの取締役への就任経緯を見ても、世上行われている役員の出向という以上に、被告の支配、管理をうかがわせるような格別の事情は認められない。

(二) この点に関し、原告は、被告が、田中をリーダーとする被告顧問団を設置し、これをイ社及びそのグループ会社の最高意思決定機関と位置付けて、原告の経営を支配、管理していた旨主張している(前記原告の主張1(二))。

なるほど、前記平成三年一月七日付けの書面(甲一二)中には、田中を顧問とする「(当行派遣)顧問団の設置」などの記載が、同年一月一〇日付けの書面(甲一三)中には、顧問団の性格として「当社及び当社グループの最高意思決定機関」、「顧問団にあっては、田中顧問、平間専務(総括)に向かった求心力ある展開」などの記載が、同年二月一八日付けの書面(甲一四)中には、「会社側…2/20総会で田中コントロールタワー体制略完成」などの記載がされている(なお、甲一三及び一四の証拠能力については後述する。)。

しかしながら、右記載及び川口の供述によっても、そもそもこうした被告顧問団が設置されたか否か明らかでないばかりでなく、その実態に至っては、それを明らかにするに足りる的確な証拠が存在しない。

4  原告株式の取得等による子会社化

(一) 原告は、被告はイ社から撤退した際、原告については撤退の対象とせず、むしろイ社を排除して被告の子会社化し、管理、運営することにした旨主張している(前記原告の主張1(三))。

(二) そこで、まず、ハワイの施設の賃借についてみると、原告が被告からその取引先が所有する施設について紹介を受けた事実も認められるが、原告は、結局は、別の施設を賃借することに決定しているのである(前記一4(二))。

(三) また、前記一5(一)で認定した被告の原告株式の取得の経緯にかんがみると、原告が主張する如く、被告が原告株式の発行済株式総数の五三・五パーセントを掌握して実質上原告の親会社となったかどうかはともかく、被告による原告株式の取得は、被告が主張するとおり、いわば緊急避難的になされたものと推認されるところである。

(四) 右(二)及び(三)で説示したところを総合すると、被告が、原告についてイ社を排除して被告の子会社化し、管理、運営したとの原告の主張については、未だ立証が尽くされていないものといわざるを得ない。

5  資金面からの支配、管理等

(一) 原告は、被告が資金面から原告を支配、管理していた旨主張している(前記原告の主張1(四))が、被告の原告に対する融資の経緯(前記一4(一))にかんがみると、格別不自然、不合理な点はうかがわれないところである。

(二) また、原告は、その意思決定は、株主総会及び取締役会で発議し決定されることはなかった旨主張している(前記原告の主張1(四))。

しかしながら、前記一3(一)及び5(二)で認定したとおり、原告においては、株主総会及び取締役会の決議によって意思決定されていたと認められるところである。このことは、定時株主総会招集通知の添付書類として各期の報告書(甲一八ないし二三)が毎年作成され、その報告書には、会員権販売を休止する旨及びその再開を見合わせる旨が明記されており、こうして株主らに対し重要な業務状況が逐次報告されていたと認められることからも、裏付けられる。

また、仮に、原告が主張する如き事態が一部存在していたとしても、それは、第一次的には原告の内部の意思決定手続の在り方に関する問題である以上、特段の事情が存在しない限り、被告の責任を生ぜしめることにはならないというべきである。

6  結論

以上説示したところを総合して考慮すると、たとい被告が原告の経営に関して何らかの影響を及ぼしていたとしても、それが世上一般に債権者又は株主として行使されている程度を超えて、違法性を帯びるものであることについては、未だ立証が尽くされていないものといわざるを得ない。

よって、争点1における原告の主張は採用できない。

三  被告の不法行為の成否(争点2)について

1  会員権の販売中止について

(一) 原告は、田中が被告からの違法な指示を受け会員権の販売を中止する旨の方針を突然決定した旨主張する(前記原告の主張2(一))。

(二) ところで、原告の会員権の販売状況については、甲七によれば、次のとおり認められる。

原告は、平成元年六月から会員権の販売を開始し、同年一一月には、個人及び法人会員権などを併せて一三七口販売し、合計一五億六七〇〇万円の収入を得、また、平成二年七月には、同様に併せて九八口を売却し、合計一二億四一〇〇万円の収入を得るなど、このころまで順調に会員権の販売を続けていた。ところが、原告の会員権販売状況はこの平成二年七月を境に悪化し、原告は、同年一二月には併せて二四口、合計三億三六〇〇万円、平成三年で最も収入の多かった四月でも併せて八口、合計一億一六〇〇万円の収入を得るにとどまった。平成三年には、個人会員権の各月の販売口数は一桁台にとどまり、また、同年三月以降、法人会員権は販売されていない。

そして、後藤田が被告に対し原告の一般的な状況報告に赴いた際に持参した乙一の書面の記載等からすると、平成三年の上半期には、会員権販売は事実上休止状態であったことが認められるところである。

こうしたことからすると、平成三年前半には既に会員権の販売活動は事実上休止していたものというべく、田中が突然会員権の販売を中止する旨の方針を決定したとの原告の主張を認めることはできない。また、以上の事情に加えて、前記一3(三)で認定したとおり、原告の第四回定期株主総会招集通知の添付書類である報告書(甲一八)中には、「この様な厳しい経済情勢のもとで、当社と致しましては当面の業務環境の変化に対応して事業基盤を再構築する必要から会員権販売活動を一時休止致しました。」と明記されており、また、その後の同報告書中にも毎年会員権販売を休止している旨が明記されている(前記二5(二))ことにかんがみると、中止決定が原告の株主総会に諮られず、原告の取締役会でも十分審議され決議されずにされたものであるとする原告の主張は、直ちには採用できない。

(三) また、前記一2、3(三)、4(二)で認定した事実及び証拠(乙二、三、証人後藤田紘二、同石黒正)によれば、平成三年一二月当時の原告の会員権販売をめぐる状況は以下のとおりであったと認められる。

すなわち、原告の個人会員権の価格は当時二〇〇〇万円であったところ、バブル経済の崩壊によりリゾート会員権の販売は厳しい状況にあったことやイ社の経営危機が表面化したことからすると、この価格は、高額にすぎたが、その価格を引き下げることについては、従来の会員との関係から困難な状況にあった。また、原告は、会員に提供を約束していた施設のうち、現実に提供できていたのはその一部にすぎなかったことから、会員からクレームを受けており、債務不履行を理由とする預託金及び入会金の返還請求すら予想されていた。さらに、イ社の経営が悪化し、その改善もされない状況下において、その子会社である原告の会員制事業もまた、先行きが不透明であった。

こうしたことからすると、原告が会員権を販売しないという方針を採ったことが、当時の原告の経営判断として誤ったものであったとは考えられず、かかる判断が違法であったということはできない。

(四) そうすると、会員権の販売中止という方針を採ったことについては、いずれの観点からしても、被告の不法行為責任を認めることはできない。

2  被告による原告経営の放置について

(一) 原告は、被告において、原告に対する融資を継続していた間、原告のプロパーの役職員が提案した経営改善策や原告の会員制事業の精算案を無視し、適時に適切な経営判断を行わず漫然と放置した旨主張している(前記原告の主張2(二))。

(二) しかしながら、原告の経営状況に応じ適時に適切な経営判断を行うべきことは、通常は、原告の取締役らに対し求められるべきものであり、原告の株主又は債権者にすぎない被告に対し求められる筋合いのものではない。そして、その経営判断の過程においては、原告の財務状況、事業を取り巻く環境その他原告をめぐる様々な要素が考慮されることになり、その際に、株主や債権者の考え方、意向等が方針決定の重要な要素となることも世上ままあることというべきである。こうしたことにかんがみると、原告が主張する如く、原告の経営状況に応じ適時に適切に経営判断を行わなかったという被告の不作為が原告に対する不法行為を構成するためには、特段の事情が存在することにより被告が原告に対しそのような措置をとるべき法的義務を負っていることが前提になるものというべきである。

しかしながら、本件においては、被告は、前記二で説示したとおり、原告を支配、管理していたとは認められず、単に、原告の株主又は債権者の地位にあったにすぎないのである。こうしたことをも考え併せると、本件においては、右特段の事情又は右法的義務の発生を基礎付ける事実について、未だ立証が尽くされていないといわざるを得ない。

(三) 被告においては、原告の経営の在り方等について、次のとおり評価、判断していたものと認められる(乙三、証人石黒正)。すなわち、原告の会員制事業の基本的な構造は、会員から徴収した預託金及び入会金で施設を購入し、その残金の運用益で日常経費を賄うというものであり、したがって、預託金及び入会金の一部については日常経費に充てるため費消せずに留保して運用する必要があったところ、原告においては、このことに失敗し、運用すべき資金がほとんどない状態に陥っていた。こうした日常経費を賄うことができない体質が、原告経営の問題点である。また、バブル経済が崩壊し、経営危機が表面化し信用力が低下したイ社の子会社である原告においては、新規会員権を大量に販売することは難しい情勢にある。そこで、原告の経営を好転させるためには、このような体質を抜本的に改革し、単年度の期間収支を黒字化し、新たな借入がなくても自転できるような態勢を作る必要があるが、新しい原告の経営陣はそのような方針で経営に臨んでいるものと評価された。そこで、原告の経営陣のそのような取組みを側面から支援するために被告から運転資金を融資することが相当である。

ところで、原告の決算報告書には、次のとおりの記載がされている(いずれも三月期。甲一八ないし二五、乙四)。

営業損失 被告からの借入金

(1)  平成四年 約七億五九〇〇万円 〇円

(2)  同 五年 約六億四二〇〇万円 約一〇億六〇〇〇万円

(3)  同 六年 約五億六六〇〇万円 約一九億〇〇〇〇万円

(4)  同 七年 約四億九四〇〇万円 約二三億四九〇〇万円

(5)  同 八年 約四億八一〇〇万円 約二六億二九〇〇万円

(6)  同 九年 約三億八六〇〇万円 約三一億〇五〇〇万円

(7)  同一〇年 約二億二八〇〇万円 約三二億七四〇〇万円

(8)  同一一年 約二億一四〇〇万円 約三四億〇六〇〇万円

右決算報告書の記載を見ると、現に、被告が原告に対する融資を継続していた間、原告の営業損失は減少していったことが認められ、しかも単年の融資額は減少しているのである。こうしたことにかんがみると、被告の右評価、判断をもって直ちに合理性に欠けるものであるということはできない。

(四) そうすると、いずれの観点からしても、被告が原告に対する融資を継続していた間の被告の不作為については、被告の不法行為責任を認めることはできない。

四  原告の損害の有無及びその額(争点3)について

1  積極的損害

原告は、被告は、一方で適時に適切な経営判断をすることを放てきするとともに、他方で原告に対する貸付金のみを積極的に増大させ、少なくとも被告からの借入金相当額である三四億〇六〇〇万円の損害を発生させたと主張している(前記原告の主張3(一))。

しかしながら、被告が主張するとおり、原告は、被告から右借入金に相当する金員を現実に交付され、それを運転資金として使用したというのであるから、被告からの融資により、損害を被ったという関係にはないといえる。

また、前記一4(一)で認定したとおり、原告の会員制事業が基本的に会員から施設利用料を徴収しないものであったことから、原告は、資金繰りに窮し、被告に依頼して融資を受け始めたのであって、原告の主張する不法行為によって融資が開始されたものではない。したがって、やはり被告が主張するとおり、原告の主張する不法行為と原告が借入金債務を負ったこととの間には、因果関係がないといわざるを得ない。

2  消極的損害

また、原告は、事業会社としての妥当、正常な営業活動を被告により不法、不当に拘束されたため、少なくとも、被告からの借入金額を下らない額の得べかりし利益を喪失するという損害を被ったと主張している(前記原告の主張3(二))。

しかし、前記三1(三)及び2(三)で説示したところによれば、そもそも、平成三年一二月当時は、会員権の販売をすべき状況にはなく、また、その後も会員権の販売を差し控えたことにつき格別不合理な点はないというべく、したがって、原告には右の得べかりし利益を喪失したとの損害は認められないものというべきである。

五  甲第一二ないし一四号証の証拠能力について

なお、被告は、甲第一二ないし一四号証は、アメリカ合衆国グアム上級裁判所に係属中であるEIEグアムコーポレーション(以下「EIEグアム」という。)と被告との間の訴訟において、グアム上級裁判所から保護命令(PROTECTIVE ORDER)が発令され、右命令に基づき機密(CONFIDENTIAL)として指定された文書であるところ、EIEグアムの子会社である原告がこれを入手し本件訴訟において証拠として提出する行為は右命令に違反するものであるから、違法収集証拠として証拠能力がない旨主張する。

この点を検討するに、確かに、甲第一四号証には「CONFIDENTIAL」との記載がされており、機密として指定されたものであることが認められるが、甲第一二及び一三号証については、その記載がなく、機密として指定されたか否か定かでない。また、そもそも本件訴訟においては、右命令の効力は直接的には及ばないと解されるところである。こうしたことをも考え併せると、右証拠の入手及び提出が、直ちに信義則又は公序良俗に反するものと認めることはできないというべく、したがって、その証拠能力自体は肯定されるべきものと判断する。

第四結論

以上の次第であるから、原告の請求は、いずれの観点からしても理由がないことに帰するので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金井康雄 裁判官 藤田広美 裁判官 榎本光宏)

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